SRID Journal
SRIDジャーナルとは
「SRIDジャーナル」は、国際開発のあり方、進め方について、斬新で面白く、知的で革新的な考えとアイディアをブログのような形で、世界に向けて発信していこうとするものです。学術論文集を目指したものではなく、SRID会員と友人達のアイディアを広く提供することが一番大きな目的です。内容は論説、提言、書評、エッセイ、フォーラム、等々何でもありです。日本と世界の識者の間で共有していただければ望外の喜びです。この趣旨に共感される読者からの投稿も歓迎いたします。年に2回という限られた発行ではありますが、人々の心に共感と明日への希望を与えられるように、努力して行きたいと思います。
途上国アルバム(池田明子:エジプト)
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シャルム・エル・シェイクの透明度の高いビーチ | 左の写真の桟橋の先端にて | スエズ運河で順番を待つタンカー |
巻頭エッセイ
「イヤな時代」の到来と新ODA大綱
浅沼信爾
元一橋大学国際・公共政策大学院教授
「イヤな時代」が到来した
2020年代に入って「イヤな時代」が到来したという印象が強くなっている。
第一は、コロナ・ウイルスが世界中を襲ったパンデミックだ。世界中で6億人以上という人が罹り、6百万人以上の人が死んだ。パンデミックが厄介だったのは、その伝染を抑えるために国境閉鎖や都市封鎖をしなくてはならず、経済活動が滞り、多くの企業が破産に追い込まれ、失業者が増えたことだ。もちろん、政府はパンデミック対策だけでなく、不況対策として拡張的な財政政策をとったから、負の遺産の一つとして累積債務を増やすこととなった。債務の持続可能性維持に苦しむ途上国は数多い。
第二は、ウクライナ戦争だ。ロシアの数年前のクリミア侵略と併合に続く2022年から始まったウクライナ侵攻は、戦場がウクライナに限られる局地戦だが、その影響はウクライナからの難民やウクライナからの食糧輸出の激減、対ロシア牽制のために採られたロシア原産の石油・天然ガスの禁輸を通じて、アフリカの食糧事情や世界の石油・天然ガス市場の逼迫を招いている。戦場はウクライナだが、今やアメリカをはじめとするNATO加盟国グループとロシアの代理戦争の様相を呈している。ウクライナ戦争は地域的な広がりだけでなく、冷戦の敗者であるロシアを戦後体制にどう組み入れるかという歴史的な冷戦の戦後処理が果たしてヨーロッパの恒久平和のために正しかったかどうかという疑問さえ今や提起している。