SRID  Journal




SRIDジャーナルとは


「SRIDジャーナル」は、国際開発のあり方、進め方について、斬新で面白く、知的で革新的な考えとアイディアをブログのような形で、世界に向けて発信していこうとするものです。学術論文集を目指したものではなく、SRID会員と友人達のアイディアを広く提供することが一番大きな目的です。内容は論説、提言、書評、エッセイ、フォーラム、等々何でもありです。日本と世界の識者の間で共有していただければ望外の喜びです。この趣旨に共感される読者からの投稿も歓迎いたします。年に2回という限られた発行ではありますが、人々の心に共感と明日への希望を与えられるように、努力して行きたいと思います。


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途上国アルバム(森田愛:ネパール)

神秘的で圧倒的なヒマラヤ山脈の眺望 近所の女性と長女(お祈り) ネパールの伝統料理タカリ

巻頭エッセイ

武力紛争で荒れる地球社会

自国中心主義と結束に揺れる途上国世界

高橋一生

元国際基督教大学教授


はじめに

多くの課題が重層化し、世界の混迷度が深まりつつある。

この状況の直接の震源地は、2001年の「9・11」である。2023年10月7日、パレスチナの武装組織ハマスが、イスラエル南部に対して大規模なテロ攻撃を行い、それに対してイスラエルが大反撃を開始した。バイデン米国大統領はイスラエルのネタニエフ首相に対して「我々もかつて間違いを犯したが」と警告をしたが、それはこの「9・11」に対する米国のヒステリー反応のことである。国内の苦悶を癒すことも大きな要因として、アフガニスタン(2001)とイラク(2003)に有志連合を引きずり込んで軍事進攻を行った。それは結果的に米国の1極世界体制を弱体化させ「Gゼロ」世界への大きな1歩になった。ウクライナ戦争(2022年2月より)、第5次中東戦争(と呼ばれることになるのかもしれない、2023年10月より)と続く武力紛争で荒れる地球社会に対し、途上国世界は身構え自国優先と多様な結束に揺れている。そうした途上国世界について分析し、対応策に関して考察する際に、この「われわれも間違いを犯した」という認識は極めて重要である。


I 愚かな対応

現在、グローバル・ノース(主として米国)による権威主義諸国(ロシア、中国、北朝鮮など)に対する経済的締め付けという状況に対し、個々の途上国が「自国優先」と、主としてそれを担保するため、グローバル・ノースからの圧力緩和を企図する「グローバル・サウス」という結束現象をみせている。しかし、20年強前に、大統領になりたてだったプーチン、上昇気流に乗りつつあった習近平、あるいは首相になりたてのトルコのエルドアンたちは、当時は権威主義と民主的指導者としての志向の両方を備えていた。然るに米国による「9・11」への対応としてのアフガニスタンやイラクに対する軍事行動、極端な安全保障中心の対外政策の展開、逆に極めてナイーブな中国に対するエンゲイジメント政策の継続という多分に思考停止的一極世界の運営が、現在のプーチン、習近平、エルドアンを作り上げてきたと言ってもいいかもしれない。巨大な帝国経験かつ豊かな歴史を持つロシア、中国、トルコに対しては、民主化の極めてデリケートなプロセスにきめ細かい対応を通じて伴走することが重要なことを我々は学ばされてきた。この学びを生かせるか生かせないかが、次に来る大国インドのモディ政権の今後、さらには多くの途上国の今後の姿をかなりの程度左右することになるであろう。


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