SRID懇談会 2010年12月17日
  日時: 2009年12月17日(木)午後6時30分〜8時
テーマ: 『日本におけるBOPビジネスの展開』
講師: SRID会員 萩原孝一
場所: UNIDO東京事務所会議室

  


テーマ 「日本におけるBOPビジネスの展開」
講師  萩原孝一氏(SRID副代表) UNIDO東京投資・技術移転促進事務所 工業開発官
萩原孝一講師略歴 カリフォルニア州立大学人文地理学修士課程を経て、1980年ジョージタウン大学院人口学修士。1981年(社)海外コンサルティング協会(ECFA)に就職。翌年国連工業開発機構東京投資促進事務所(UNIDO IPS Tokyo)に出向。1983年国際協力事業団(JICA)の専門家(中小企業育成)としてケニア工業団地公社(Kenya Industrial Estate)に赴任。1985年以降、UNIDO IPS Tokyoの職員としてアフリカ及び中南米の投資・技術移転プログラムを促進。最近は工業開発官として、TICADプロセスに基づくアフリカ向けバイオ燃料やバナナファイバー・プロジェクト活動に従事。


出席者 大戸、高瀬、三上(良)、倉又、河野、今津、山下(文責)  計7名


講演概要
 BOP(Bottom of Pyramid)はNext Marketといわれるが定義は必ずしも明確でない。最初にこの言葉を使ったのはF. Roosevelt(1932年)である。10年ほど前にPrahalad & Hartによって「ビジネスと貧困削減の両立を目指す」ことが提唱された。年間所得が$3,000以下の約40億人を対象とする市場で、その規模は5兆ドルといわれている。BOP市場は先進国市場が飽和する中で、若年人口が多く、潜在的なマーケットと注目されている。なぜ貧困対策になるかといえば、貧困者を消費者としてだけでなく、生産者やビジネスパートナーとみなすからである。他方、BOP市場への参入リスクとして、生活習慣・宗教・文化が異なる、ニーズの把握が困難、ビジネスに対する現地の規制が不明、薄利多売であるため黒字転換までに時間がかかる、などがあげられる。
 BOPは莫大なポテンシャルを持った市場であるといえるが、日本企業がBOPビジネスを進める上での課題は大きい。住友化学のオリセット・ネットは少ない成功例といわれている。味の素はブラジルからサトウキビを輸入してナイジェリアで製造・販売しているが、袋を小分けにしたら売れ出したということだ。P&Gは温水ではなく冷水で溶ける洗剤を売り出して成功した。Panasonicはタンザニアで高品質の乾電池を製造しているが、商品の盗難が横行して引くに引けない状況にある。西アフリカで製造していたホンダやヤマハのオートバイは、今や中国製品に駆逐されている。「安かろう、悪かろうは駄目」という日本の伝統的発想では太刀打ちできない。発想の転換が必要である。
 2008年のTICAD4の後、日本はアフリカに官民合同ミッションを送りこんだ。アフリカ側はSustainable DevelopmentのためにODAはいらないから投資が欲しいと言っている。しかし投資・貿易でみるべき成果は何もない。これに対して中国のアフリカ支援は意識が違う。ガボンで遭遇した胡錦涛国家主席一行の随員によると、5年後に中国は確実に食糧輸入国となるため、Bread Basketをアフリカに求めているということだ。日本はガバナンス、インフラなど投資環境を重視するが、欧米や中国は資源確保のために危険な国にも投資する。日本にとってアフリカは重荷だが、列強国はビジネス・チャンスと見ている。このままでいけば日本は100年後に中国の統治国になってしまう。
 UNIDO東京事務所は1981年の設立以降、日本企業と途上国の政府機関・企業の仲介役となって直接投資や技術移転を促進・支援している。最近の成功事例はバングラデシュでユニクロが加工基地を設立したこと。モザンビークでは明治製菓系列の食品会社が現地企業との合弁でハマグリの加工工場を設立し、250人の現地職員を雇用した。ケニアではELVのリサイクル工場、インドではJCOALが石炭関連の合弁企業を設立した。バナナ繊維から紙・布を作る事業はルワンダ・ウガンダの現地NGO、多摩美術大学、JICA、UNIDOが一緒にやっており、現地での生産気運が高まっている。ヤンマーはマリでジェトロファ(油ヤシ)を原料とするバイオ燃料を開発中である。経産省が3億円の補正予算で10件のBOP絡みの研究開発を支援している。反面、企業によるCSRが先行しており、その後のBOPビジネスの展開が期待される。

質疑応答:
BOPの潜在需要

三上 4点うかがいたい。@UNIDOのレポート説明会で、私から同レポートでは、米国の消費依存の世界経済は変化している点を無視していると指摘した。アフリカなど貧困層の需要は従来潜在的なものと見られてきた。この需要を顕在化させるためには、何が問題で顕在化していないのか明らかにする必要があるのでは、例えば顕在化をかつては、欧米の大企業が邪魔していたのではないかなど。ABOPビジネスといってもそれぞれ事情が異なり、業種別に整理する必要がある。資源、素材産業、自動車・家電産業など耐久商品、食品など非耐久商品など、B中国の活躍はめざましいが、日本と中国の間に韓国がある。ヨルダンで仕事をした経験では、かつて日本の市場だったが、韓国に押され、そして中国の市場に変化している。韓国企業の強みが新聞に報道されている。サムソンなどの韓国企業は、学生希望者を1年間自由に海外で生活させ現地を学ばせ、それら学生を採用し途上国のマーケットを把握させている。中国や韓国はこれまで日本とバッティングしない国でマーケットを開発してきた、これまでは、日本企業は欧米市場で安全サイドで儲けることができた。味の素はもともとBOPの末端に密着して売ってきた。日本の食品加工は意外に強いのではないか。蒲鉾生産などBOPとして考えられないかCこれは私の持論だが、日本企業がアフリカに進出するのは無理がある。BOPを本気でやるなら、すでに日系人がいて日系企業の地盤がある南米が強いのでは。
河野 40億人というが単一のマーケットではないので、過大評価しないように。他方、マーケットの外にいる人を巻き込む方法を開発できた場合には従来型のアプローチでは得られなかった成果につなげることができる可能性がある。個別具体的なイノベーション〈技術、販売方法など〉は考え方がわかっただけで実現出来る物ではなく簡単ではない。日本企業は反対方向に向かって商品の高級差別化を進めてきたので、企業のDNAを入れ替えるか、それとも中国、インド、欧米の後塵を拝すか、ということになる。
三上 日本の輸出産業は技術水準が高いと驕っていた。中国の技術は急速に高くなっている。かつての日本が1ドル・ブラウス輸出から自動車輸出へと進歩したと同様中国・韓国の技術は発展している。中国企業にとってもアフリカでのビジネス・チャンスは甘くない。しかし、アフリカの都市にタワーを建設して携帯電話市場を押さえる、という国家レベルの発想は日本にはない。
萩原 第三者的にみると、中国はアフリカを食い物にしている面もある。中国人が大挙してアフリカに移住し、シェフつきで暮らすなど植民地時代を彷彿とさせる。アフリカ政府もこうした状況を問題視し、規制している国もある。ウガンダの柏田氏、ケニアの佐藤氏などのような伝説的な日本人経営者は今後なかなか出てこないだろう。今では海外青年協力隊のプログラムが仕分けの対象となっている。

BOPの起業支援
倉又 3点ほど意見を述べたい。@マーケットの顕在化については、都市化による人口集積が市場を拡大し、需要の密度を上げ需要の顕在化につながるのではないか。ABOPビジネスの担い手の可能性についていうと、東工大(社会工学科)が留学生にビジネスプランを作成させ、日本のベンチャー企業と結びつけるなど、帰国後の起業化を支援する試みをしている。B文部省の予算が3年間で終了するため、われわれがNPOを受け皿にしてサポートを継続することを考えている。
萩原 大学にはインキュベーション的発想が少ない。バナナ・テキスタイルの技術を持っている多摩美術大学でも、あくまでも技術を通した人材育成ということでビジネス展開には否定的だ。
倉又 大学の先生はタコつぼにこもり、開発経済学でさえPure theoryに傾いている。SRID学生部も学術志向が強いというのが、私の最近の感想だ。(かつての学生部は夏休みにアンコ一ルワット修復事業に参加していたが、いまの学生部はBOPビジネスをどう捉えているのだろうか。)
三上 世界的に今までは都市化の方向に向いていた。投機を含め価格変動が激しい時代にグルーバル市場で競争することは無理がある。これからは農業を含め、ローカルで自給自足できる経済に視点を移すことを必要ではないか。
高瀬 @開発分野に「研究」が抜けているので、NGO、大学、コンサルが一緒になってやるべき。ACSR(Corporate Social Responsibility)やCDM(Clean Development Management)など訳のわからない略語が氾濫しているので、BOPとの関係をメモにして整理して欲しい。SRIDの全員が理解できるようにすべきである。Bオリセットの蚊帳には薬剤が塗ってある。このことを非難するNGOがいるかと思えば、東大の先生が害はないと言っている。自分に都合のよいことだけを言っていてはダメ。この辺をなんとか整理できないか。

BOPの雇用創出
大戸 BOPは雇用を生むのか。
萩原 BOPは人を消費者、生産者だけではなく、ビジネスパートナーとみなしている。UNIDOとしては雇用が生まれるのがベストである。途上国は何よりも仕事を欲しがっている。
河野 消費者、生産者、ビジネスパートナーと並列するが、先ずは消費者としてどう取り込むかが第一歩。貧困層の購買力を引き出すような商品を開発するとか、販売方法を見つけることに成功すればその分だけ新たな市場が広がるわけであるからその追加需要に対応した雇用も創出される。たとえば、僻地まで商品を売りさばく人が必要となりその雇用が創出される。
大戸 35周年記念シンポジウムで「開発支援の方向性」についてパネル討論をやり、うまくいけば政策提言にとりまとめたい。高橋会長の考えでは1回の討論では無理なので、パネル後に委員会を作って検討を続け、来年の5月頃をめどに提言をまとめてはどうかとしている。BOPの話も政策提言に入れるので、分かりやすい形にまとめてほしい。例えば、40億のマーケットというが、個々のマーケットは非常に小さいのではないか。そういう小さいマーケットで、雇用はどのようにして生まれるのか、具体例を出して説明できると大変いい。
三上 BOPが底辺の市場開拓であるが、同じ様な動きがある。社会的企業やITを利用した途上国市場への投資も行われている。CSRでも企業が何処までを社会的責任とるのか、雇用への責任はどうするかなど。「企業が儲かれば国が繁栄する」というが企業が海外に出て行けば雇用が失われ、国は繁栄しない。企業の利益と日本の雇用増は逆方向を向いている。一度企業論をまとめて見たい。
倉又 BOPビジネスの芽(とくに技術面)は、大企業より小企業やベンチャー企業にあるのではないか。私の生まれ故郷の小企業が大連で中国の小企業と合弁でタイヤ再生工場を設立し、成功している。
萩原 中国が途上国で技術協力・経済協力の中で(高橋会長が言われるような)「文化変容」を起こしたら日本に勝ち目はない。