SRID懇談会 2009年9月29日

  日時: 2009年9月29日(火)午後6時30分〜8時
テーマ: 途上国間のビジネス・マッチングを支援する南南協力:「SS-GATEシステムの展望」
講師: SRID会員 藤村建夫
場所: UNIDO東京事務所会議室
  


テーマ 途上国間のビジネス・マッチングを支援する南南協力:「SS-GATEシステムの展望
出席者 会員: 大戸、高瀬、三上(良)、堀内、今津、山下(文責)
学生会員: 松井、大塚、高松 (計9名)

講師  JICA客員専門員 藤村建夫

講師紹介: SRID会員の藤村氏は1997年にJICAからニューヨークのUNDP本部に派遣され、南南協力に携わった。2005年にUNDP退職後はUNDPの特別顧問として、SS-GATEシステムの立ち上げに従事する傍ら、JICA客員専門員としてアフリカの米倍増計画に参加したり、ミャンマー日本エコツーリズム(MJET)会長としてNGOを主宰している。このほか東京大学新領域創成科学研究科で開発プロジェクトの形成と運営管理を講義するなど、東京と上海を往復しながら多忙な毎日を過ごしている。

講演概要
SS-GATEシステムとは
・ 「South-South Global Assets and Technology Exchange システム」 (SS−GATE システム)は、ニーズとリソース、需要と供給のマッチングをウエブサイトを使って仲介する新しいシステムである。具体的にはオンラインを通じて、ニーズと供給をマッチングさせ、必要に応じて、技術コンサルティング、法律的助言、金融斡旋などの支援サービスを提供する。
・ 「SS−GATEシステム」には、4つの通路(トラック)がある。第1トラックは途上国にある中小企業同士の技術、資産、資金の移転を支援する。第2トラックはCreative Economyを促進する。第3トラックはNGOの人間開発経験の移転を支援する。第4トラックは地球規模の気候変動に関する技術移転への支援である。
・ 「SS−GATE」は、上記の第1トラックを運営するために、UNDPと中国商務省の国際経済技術交流センター(CICETE)の支援を得て、上海産権交易所(SUAEE)が資本金7億5千万円を出資し、上海に設立された非営利の法人である。中国にはまだNPO法が整備されていないため、現在立法措置が検討されており、この法律ができれば、国際的な非営利組織となる計画である。
・ 「SS-GATEシステム」の第1トラックは、中小企業開発のための4つの地域ネットワークと協力しながら、主として途上国の中小企業同士のマッチングを仲介して、技術、資産、サービス、資金を移転するシステムである。上海にあるセンターの他、全世界に14のWS(Work Station)を持っている。現在の参加国数は14。各WSはSS−GATEとWorking Arrangementを結んでいる。タイのWSは投資促進会社、ベトナムのWSは科学技術省の機関である。将来的に参加国を70〜80、WSを100まで増やす計画である。各WSの下に10以上のMemberがエージェントとして任命される。

サービスの形態
・ 技術移転としては、知的所有権の移転(IPR, ライセンス、ストック・オプションなど)、技術開発(共同R&D)、技術サービス(メンテナンス、訓練など)、技術コンサルティング(F/S、B/P、生産性の向上、経営指導など)を提供する。資産の移転としては、ハードウェア(工場、機械、器具)と不動産(土地、建物、設備)を対象に資産移転を仲介する。プロジェクト・ファイナンスとしては、新規プロジェクトでのジョイント・ベンチャーによる起業、フランチャイジング、技術の商業化・工業化の支援、技術開発への融資を支援する。既存企業に対しては技術の導入、企業合併(M&A)、資本提携などを支援する。契約内容には干渉しないが、困った時にサポートする機能を持っている。
・ 3年間で10,000件のプロジェクト・プロポーザルを審査し、そのうち1,000件をマッチングさせる計画である。10パーセントの成功率を見込み、100件程度の成約を想定している。
・ ヤフーやイーベイなどのウェッブサイトは、パートナーとのマッチングができても相手の信用度が審査されていない。SS-GATEが提供するサービスの特徴は、契約相手となる企業を審査して信用度を高め、支援することである。
・ マッチングの方法は、プロジェクトのオーナーがプロジェクト(投資計画)をMemberに提出し、その内容審査にパスしたプロジェクトのみがWSに上げられ、その審査にパスしたものが上海のセンターで最終審査を受け、これにパスしたプロジェクトのみが、ウェッブサイト上に公開される。この広告を見た企業があるプロジェクトに興味を持つと、その国のMemberに「関心があること」を意図表明し、会社の資料と条件を提出する。Memberは会社の信用度を重視してスクリーニングし、プロジェクトに合致するかどうかを審査して、これにパスした会社をWSに上げる。WSが同様の審査をして、パスした会社を上海のセンターに送付し、パスした会社のみがプロジェクトのオーナーに紹介される。プロジェクトのオーナーは、複数のパートナー候補者の中からベストの1社だけを選ぶ。マッチングが成立するのは1社:1社の組み合わせのみで、マッチングが成立すれば、交渉が開始される。MemberとWSは要請に応じて銀行を紹介する。両者が合意に至れば契約書が署名される。マッチングにはマニュアル方式とコンピューターを使用するオートマチック方式がある。オークションや競争入札も可能である。契約が成立するとサービス・フィーとして双方から2%ずつ、計4%を徴収する。買い手は、ダウンペイメントの支払いとして、契約額の5%をWSの銀行口座に振り込み、第二回の支払いの一部として売り手に支払われる。
・ これらのオペレーションが自由にできるためには関係者の訓練が必要である。途上国には、ビジネス・コンサルタントが少ないので、トレーニング・チームを作って巡回させるほか、トレーニング・センターを上海に作って、人材養成を行う。現在、ヤンプー地区政府が5階建て2000平方メートルの施設を建設中で、12月に完成すると無償でSS−GATEに貸与されることになっている。企業間の技術移転をサポートした例としては、中国の会社が廃材を利用して低価でパーティクルボードを作る会社をエチオピアに設立した。SS−GATEシステムは、広範なニーズとリソースをマッチングさせることが可能であり、応用範囲が広い。
・ 今後は、SS-GATE Asia, SS-GATE Africaといった地域内でのマッチング・システムの開発やSS−GATE Thailandといった国内の中小企業間のマッチングのみを対象としたシステムの開発も進められよう。使用言語は英語と中国語だけでなく、将来的にはフランス語、スペイン語、アラビア語によるウェブサイトも計画されている。一次産品貿易、入札方式による調達、CDMなどにもソフトを応用できる。実際にWSで成功したケースが少しづつ出始めた。マレーシア、ベトナムなどでは、技術を売りたい企業が多く、買いたい企業が少ないので、投資を求めている企業の情報をできるだけ載せるようにしている。

質疑応答
堀内 水をかけるようで申し訳ないが、世銀やUNCTADのレポートを読んでいると、問題解決のアドバイスとしてConsolidationが必要という言葉しか出てこない。SS−GATEシステムのアイディアは面白いし、スキームとしてもきれいにできているが、そう簡単に動かないと思う。西アフリカの中小企業を軒並み調べたが、現地人が何を望んでいるか。とても自分からこうしたスキームに入ってやろうというレベルではない。ベトナム程度ならできるかもしれないが、南アとエジプトを除いてアフリカの中小企業で該当するのはほんのわずかであろう。国際機関のプランとしてはよいが、本当にペイするか。どれだけの雇用を生み出すか。中小企業のマッチングに金融機関が間に入るというが、ヨハネスブルグとタンザニアの鋳物工場はマッチングできるレベルではない。アメリカで教育を受けたガーナ人が比較的、自国に帰ってきている。通信手段の発達のおかげでNYと同じ商売ができる。新しい風である。そうした動きもあるが、リソースを使ってこのスキームが動くか疑問である。
藤村 アフリカも最近は変化してきている。アジアの国の中では中国が特にアフリカに進出している。ギニアには中国人が1万人もきており、コナクリには中華料理屋が何軒もできている。中国はアフリカで、ダイナミックに動いている。マレーシアの企業は一時期アフリカに熱心であったが、最近は熱が冷めて、ベトナム等の近隣にアジア諸国に関心が向かっているようだ。他方、インドやパキスタンの企業もアフリカには熱心である。アフリカにもソフト企業ができてビジネスセンスを持ってやっている。もちろん、アフリカの中小企業全部がSS−GATEに参加することを期待しているわけではなく、海外の企業とビジネスをやっていける有力な中小企業が参加することになろう。
堀内 中国は政府がしっかりしている。輸出入銀行を通して海外進出の戦略を持っている。 国際入札でも中国企業がとるので、それに対する反発も出てきており、センシティ ブになっている面がある。アフリカにはポリシーがない。結局は一次産品供給国にな って、ヨーロッパの植民地経営と同じことになっている。

中国企業の進出

大戸 南南協力といいながら中国を援助しているのではないか。
藤村 「SS-GATEシステム」の対象は、中国企業だけではなく、アジア、アフリカ、中近東、中南米の企業同士の協力も含まれており、中国企業だけがこの仕組みを利用しているわけではない。地の利があるからWSへのアクセスが早いという点はある。インドやパキスタンもアフリカに進出している。中近東とアジアの協力もある。まだ、やってみないとわからない面もあるが、貧困削減が援助の目的であるから、貧しい国をサポートするのが建前となっている。しかし、ビジネスの能力がある方がうまくいくのは当然で、これは円借款でも同じある。キャパシテイが十分でない貧困国をどうやってサポートするか、という観点から地場の中小企業を対象にしている。海外で活動できる中小企業が対象となっている。静岡のコア・タムタムという会社は農作物の栄養剤を作ってベトナムで成功しており、これを中国でも実験を行っている。この栄養剤をかけると、野菜に虫がつかず、成長が早いといわれている。
堀内 中小企業というが、従業員が30人いればカメルーンでは大企業である。
三上 私は毛沢東の時代から中国で多くの仕事をしてきた。一口で言って中国はものすごく変化が激しいということである。中国での最後の仕事は杭州市の中小企業振興計画であり、その中に500万円かけて杭州市で中小企業ネットワークを作った経験がある。ネットを開くと開設に三上の名前がでている。杭州には企業間電子商取引(マッチング)のオンライン・ネットの世界で最大手である「アリババ」がある。杭州人は金儲けでぎらぎらしている。アドバイスをするとすぐに実行する。イラク、イランでも日本、韓国が撤退して、今は中国企業が進出している。中国はものすごく力があることは間違いない。アフリカに対する中国の突っ込みには到底太刀打ちできない。中南米には日系人がたくさんいるし通信関係で日本のシステムを採用しようとしている。SRIDはアフリカ系が強いが、中南米をもっとやった方がよいのではないか。中国とベトナムは黙っていてもうまくいく。
藤村 アフリカへは中国、インド、パキスタンの投資が多い。大方は鉱物資源への投資で、製造業への投資はまだ、特定の国にしかない。
堀内 せいぜいあっても縫製。「大和シャツ」は中国製品にやられて皆つぶれた。儲かるものならだまっていても動く。日本と中国ではビジネスマンのリスク・テーキングがぜんぜん違う。
大戸 ユニクロは貧しいバングラにも進出している。アフリカでもやれるのではないか。
堀内 アフリカの労賃は中国の2、3倍。問題は食糧が高いことである。食糧を輸入する必要がある。賃金はものすごく高い。
藤村 食糧の生産コストが高いのは、肥料をすべて輸入しているからで、加えて、生産地と消費地をつなぐ輸送費もきわめて高い。
堀内 神戸製鋼がザンビアで尿素を作っていた。マンガン、鉄などアフリカの鉱物資源を積み出す道路は立派にできている。アフリカ人が作ったものを隣町に運ぶ道路がない。国境を越えるにも、密輸しないと高い。密造酒などの需要はすごい。
藤村 加工できないことがアフリカの制約になっている。米など食品加工に対するポテンシャルはある。

多国間支援
高瀬 今年の6月にCARDの全体会合が東京で開催され、その後1ヶ月経ったが、まだ何もニュースが入ってこない。NRDS(National :Rice Development Strategy)を実施するメカニズムができているのか心配だ。財務省、貿易省など全員のコンセンサスで、どのドナーがどこを支援するかを決めて実施すればよい。
堀内 そう決めることがいけない。家族の食糧を作っているのは女性だが、女性は政府のいうことを聞かない。アップランド、ローランド、エコランド、イリゲーションなどに分類しても、ファシリテーションを強化しないとうまくいかない。1ヘクタールの何分の1かに米を作るよう指導する。新しい種子の開発なども結構やっている。
高瀬 2009年7月にオバマ大統領が初めてガーナを訪問したとき、欧米諸国のアフリカに対するこれまでの援助は「食糧分配」であったことに気がついた。これからは「食糧増産」を主目的とすべきとの援助政策の転換を行い、ヒラリー国務長官に命じた8月4〜14日のアフリカ7カ国訪問を機会に、この線へと本格化させた。1973年、世銀総裁のマクナマラのナイロビ演説以来続けてきた、世銀やUSAIDのアフリカ「大規模農業援助」を、今後は「小農育成」へと転換するであろう。
堀内 そこが間違っていると思う。プランは色々ある。サブサハラでは2002年に援助の10%を食糧に投資すると言っていたが、アフリカ政府自身がやっていない。プランは山ほどあるがアフリカ人の見解が入っていない。入っているといっても、実際は先進国と国際機関が作っている。アフリカ人の見解が入っていないものは無意味である。
藤村 世銀、アフリカ開銀、JICA、FAO,USAID、IFAD、IRRI,WARDA等がCARD推進に参加している。私自身は現在、4つの仕事を持っている。1つはJICAの客員専門員としてアフリカの米倍増計画を手伝っている。具体的には、CARD立ち上げ会議で事務方を手伝った。立ち上げ後、国別の稲開発戦略(National Rice Development Strategy)が作成されたが、オーナーシップが大事であるので、その後、実施の準備状況がどうなったかを調べるために、カメルーン、ベニン、ギニアに行って来たところである。種子の増産、灌漑設備、ポスト・ハーベスト技術等、バリュー・チェーンに沿って、プロジェクトが計画されている。問題は、誰がファイナンスするかであるが、ギニア政府の国庫は空といわれている。農業省の局長は間もなく、国内委員会を設置すると言っていた。プロジェクトにプライオリティをつける必要がある。日本政府は、世銀に1億ドルのファンドを拠出しており、そのうち4000万ドルで農業研究機関を強化し、他の4000万ドルで巡回指導能力を強化する計画である。アフリカ開銀はネリカ米(アフリカ種と日本種を交配したもの)の普及を7カ国でやってうまくいったので、2011年以降、第二フェーズを実施することになり、さらに、新しい7カ国を加え、計14カ国で普及するとしている。世銀のプロジェクトは研究と巡回指導を横断的に実施するため、他の事業との関係を調整すること必要である。整合性と補完性がとれるようにする必要がある。CARDはドナー同士の協力である。WARDAも、研究に加えて、種子の増産、データの整備、訓練とか色々やっているので、他のドナーとの相互連携が不可欠である。例えば、種子の増産はアフリカ開銀の米の増産と直接にかみ合う。

通信事情
高松 インターネットはアフリカで繋がるのか。
藤村 アフリカの中小企業でコンピューターを持っているのは有力企業のみである。このため、WSにコンピューターを設置して、中小企業が使えるようにした。インターネットがどこまで使えるかの問題はある。技術的な問題でつながらないことがあるし、また、容量の大きいファイルを添付できない。停電がよくあり、電圧も不安定だ。常にバックアップが必要で、バッテリーが効くはずなのにコンピューターで作成した書類が停電でぱっと消えてしまうことがある。
堀内 東アフリカには光ケーブルが入った。携帯電話の普及はすごい。貧しくても持っている。プリペイド方式である。メールは使えない。単なる電話として活用されている。アフリカ人はしゃべるのが大好き。携帯が普及して町のトラフィックが減ったといわれている。わざわざ出向かなくてもアポイントが電話で取れる。魔術師は携帯を2つも3つもぶら下げている。遊牧民は町の外にいても、羊がどこでいくらで売れるかわかるから、一番高く売れるところに直接持っていく。
藤村 ただ、マナーモードがないので、会議中もけたたましい音楽が鳴り響いて、うるさくてたまらないことがある。
堀内 東アフリカの旱魃で300ないし400万人が死ぬといわれている。ケニアで最も古いトサツ場は1947年にできている。ケニアのように豊かな国では近代化するカネはいくらでもあったのにしなかった。援助がどこに消えたのか。世銀・IMFの資金がどこに消えたのか。
藤村 現在、UNDPとJICAの仕事の他に、ミャンマーでのエコツーリズムと青少年の交流を目的とした、「ミャンマー日本・エコツーリズム」というNGO活動を行っている。8月末に植林をやるために日本から学生14人を含む19人が参加してエコツーリズムを実施した。最初にヤンゴンの僧院で交流会を行った。植林の現場はミャンマー中部にあるバガンという乾燥地で、11〜13世紀に建てられたバガン王朝の遺跡があり、すばらしい景色がある(写真を見る)。日本人とミャンマー人がペアになり、番号と名前をつけたラベルを苗木につけて、1215本を植林した。暑いので70センチ四方の穴を掘るのは大変だったが、だんだん上手になった。年間雨量は600ミリと木が育つ限界である。植林によって雨が増えれば、池の水が増えて野菜が二回作れるようになり、これを市場で売れば、所得も二倍に増える。村の緑化委員会が指揮して、パートナーが順番で水遣りをすることになっている。今回は、SRID会員の福永氏と神田氏も参加した。村の小学校でも村人と一緒に交流会を行った。最終日には、ヤンゴンで、1980年代に日本が無償資金協力で作った総合病院、看護大学、プラネタリウム、国立競技場と技術協力を行った橋梁センターを見学した。当時は30メートル以上の橋を作る技術がなかったが、今では、イラワジ河に8つの橋をかけるほどに技術力が向上している。橋梁センターの事前調査団が乗った飛行機が落ちて日本人専門家が6人死んだ事故があったので、ヤンゴンの日本人墓地に記念碑が建てられている。